- James Barr, review of J.T. Milik, ed., The Books of Enoch: Aramaic Fragments of Qumran Cave 4, The Journal of Theological Studies 29 (1978): 517-30.
評者は同書の価値を高く評価しながらも、読者がそれを有効に活用し、適切に評価するためには、諸問題の完全な議論が必要であると述べている。本書の主たる問題は、校訂テクストに印刷されているアラム語テクストが実際には断片にはまるで見出されず、校訂者Milikによって書かれたものであるという点である。
Milikは確かに自分が再構成した部分については括弧に入れてそれと知れるようにしてはいる。しかしながら、読者はきわめて保存状態がいいように見える写本が、実際にはごくわずかな断片しか残していないことに気づいたら、驚くことだろう。再構成自体が問題なのではない。そのスケールがあまりに大きいことが問題なのである。
Milikがほとんど天才といえるほどの器用さと計り知れないほど長い時間をかけてこれを達成したことは疑いない。適当な文章をアラム語で作り上げるその能力は特筆すべきものである。またこうしたことはパピルス学では常套手段だが、問題はわれわれがこの時代のアラム語資料をあまり持っていないということである。
さらにMilikのテクストは、ギリシア語訳やエチオピア語訳からアラム語原典を導き出しているにもかかわらず、一方でギリシア語訳やエチオピア語訳は原典の意味を取り違えていると説明するという「大いなる仮説(gigantic hypothesis)」を表している。いわばわれわれは「純粋なる幻想の世界(the world of pure fantasy)」にいるのである。
論文著者は、Milikは再構成部分を他よりも小さいフォントにしたり、巻末の転写には再構成を加えないようにしたりすれば、まだマシだったと指摘する。Milikはアラム語テクストが「寝ずの番人の書」の50パーセントをカバーしていると主張するが(p. 5)、これは自分で付け加えた再構成テクストを含む数字のようである。
こうしたことから、本書の価値は断片の部分ではなく、きわめて幅広い事柄を論じた導入にある。ただし、ここでの議論もあまり整理されておらず、読者を困惑させるものになってしまっている。バビロニアの世界観とエノクのそれとを比較するなど、『エノク書』の完全なテクストへの導入であればよかったが、アラム語断片の導入としてはふさわしくない。
このような状態であるから、誰か別の人によって『エノク書』の完全な校訂版が出版されることが待たれるし、アラム語テクストに関してはDJDシリーズで出版されるべきである。エチオピア語訳を低く見積もっており、エチオピア語の転写も通常受け入れられているものではない。
またせっかくのアラム語訳の発見を生かしていない点もある。すなわち、ギリシア語訳やエチオピア語訳との比較による翻訳技法の研究である。そもそもこれをやって初めてMilikのように翻訳に基づく原典テクストの再構成という荒業ができるはずであるが、彼はこれをしていない。しかし、少し翻訳技法をチェックするだけでも興味深い結果が得られる。
このような批判的な書評は、本書の価値のなさゆえではなく、批判しないことには読者がきちんとこれを利用することができないからである。
- Edward Ullendorff and Michael Knibb, review of J.T. Milik, ed., The Books of Enoch: Aramaic Fragments of Qumran Cave 4, Bulletin of Oriental and African Studies 40 (1977): 601-2.
評者らは本書の問題点をまず3つ指摘する。第一に、実際に発見されたアラム語断片はとてもわずかだったにもかかわらず、Milikは7文字に対して56文字を付け加えるような大掛かりな再構成をしている。第二に、エチオピア語訳に対して信頼をまるで置いていない。第三に、ゲエズ語の知識が不十分である。
「寝ずの番人の書」のアラム語テクストが全体の50パーセントをカバーするというが、それはMilikが再構成したテクストを含めた数字であって、実態とかけ離れている。
- James VanderKam, review of J.T. Milik, ed., The Books of Enoch: Aramaic Fragments of Qumran Cave 4, Journal of the American Oriental Society 100 (1980): 360-62.
本書では「天文の書」は完全には扱われておらず、「巨人の書」はまだ初歩的な段階である。Milik以前は『エノク書』とは、「寝ずの番人の書」「たとえの書」「天文の書」「夢幻の書」「エノク書簡」から成り、キリスト教以前の成立と考えられていた。しかしMilikはこうした構造はギリシア語訳成立(400 BCE)より後に成立したものであり、「たとえの書」の代わりに「巨人の書」が入っている。
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