- D. Robinson, Western Translation Theory: From Herodotus to Nietzsche (Manchester: St. Jerome Publishing, 2002).
Western Translation Theory: From Herodotus to Nietzsche Douglas Robinson St Jerome Pub 2001-04 by G-Tools |
西洋の翻訳論について、90人の著者の124編の文章を編んだアンソロジーです。出版社はその名も「St. Jerome Publishing」。この出版社はどうやら翻訳学関係の出版を主にしているようで、「The Translator」という学術誌も発行しているようです。いい会社名ですね。
本書は、見たところ類書に比べて古代・中世の翻訳論が充実しており、英訳だけですがなかなか読みごたえがありそうです。古代の著者としては、ヘロドトス、キケロー、フィロン、ホラーティウス、パウロ、セネカ、小プリーニウス、クインティリアヌス、ゲッリウス、サラミスのエピファニオス、ヒエロニュムス、アウグスティヌス、ボエティウスなど、中世以降の著者としては、トマス・アクィナス、ロジャー・ベイコン、ダンテ、ウィリアム・キャクストン、エラスムス、ルター、トマス・モア、ティンダル、エチエンヌ・ドレ、エチエンヌ・パスキエ、モンテーニュなどが収録されています(もちろん他にもドライデンや、ゲーテ、シュライエルマッハーなど近世の翻訳論も多数ありますが、多すぎるのでここでは割愛)。
翻訳学関係の入門書を読むと、だいたいキケローとヒエロニュムスが翻訳学の祖であるとされているようで、それは確かにそのとおりだと思うのですが、本書では彼らの周辺の翻訳論にまで目が向けられているので、注意深く読めばキケローやヒエロニュムスがどのような点で独自のものを持っていたか、またどのような点で時代のコンテクストに沿っていたのかを知ることができるでしょう。キケローとヒエロニュムスの翻訳論における先進性については、他の本ですが、たとえば次のように書かれています。
- ミカエル・ウスティノフ(服部雄一郎訳)『翻訳:その歴史・理論・展望』、白水社文庫クセジュ、2008年。
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西洋の伝統では、一般的に翻訳の諸問題には二つの起源が見出され、そのどちらもがラテン語というただひとつの言語を通して具現化している。一方は宗教書、とりわけ聖書の翻訳であり、聖ヒエロニムスをその守護神とする。もう一方は古代ローマの文学テクストの翻訳であり、『最高の種類の弁論家について』(紀元前46年)におけるキケロの厳命が想起される。(30-31頁)
- ジェレミー・マンデイ(鳥飼玖美子監訳)『翻訳学入門』、みすず書房、2009年。
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20世紀後半まで、西洋の翻訳理論はGeorge Steinerが言うところの「直訳(literal)」、「自由訳(free)」、「忠実な訳(faithful)」という「三つ巴」の関係をめぐる「不毛な」議論で行き詰っていたようだ。「逐語訳」(つまり「直訳」)と「意味対応訳」(つまり「自由訳」)の区別はキケロと聖ヒエロニムスに遡り、現代に至る何世紀にもわたって翻訳に関する重要な文献の基礎を成している。(28-29頁)
いろいろ調べてみると、翻訳学の視点から、ラテン世界の翻訳論についてある程度扱ったものとしては、次の本が詳しいようです(入手済みだが未読)。
- L. Kelly, The True Interpreter: A History of Translation Theory and Practice in the West (New York: St. Martin's Press, 1979).
The True Interpreter: A History of Translation Theory and Practice in the West Louis G. Kelly Palgrave Macmillan 1979-11 by G-Tools |
またRobinsonのアンソロジーの範囲よりあとの、20世紀の翻訳論を中心的に扱ったアンソロジーとしては、自身も理論家として有名なVenutiが編んだ次のようなものがあります。
- L. Venuti (ed.), The Translation Studies Reader (2nd ed.; New York: Routledge, 2004).
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