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2018年12月16日日曜日

オリゲネス『エレミヤ書説教』の基礎知識 Nautin, "Introduction: Chapitre 1: Histoire de texte" #1

  • Pierre Nautin (ed. and trans.), Origène: Homélies sur Jérémie (Sources Chrétiennes 232; Paris: Cerf, 1976), 1:15-32.


オリゲネスの『エレミヤ書説教』は、明らかに彼が司祭だったときの作品なので(11.3.26; 12.3.18)、少なくとも232年の叙階よりあとである。また、これよりあとに『民数記説教』や『ヨシュア記説教』を書いたこと(12.3.21;『ヨシュ説』13.3)、そしてこれよりも前には、『詩篇説教』(8.3.2)や知恵文学に関する説教を書いたことが分かっている(『詩説』は240年)。基本的にオリゲネスは、知恵文学、預言書、歴史書の順に説教をしたようである。また『エゼキエル書説教』は、『ヨブ記説教』と『エレミヤ書説教』のあとに書かれたことも確実である(『エゼ説』6.4; 11.5)。研究者の中には、『レビ記説教』8.3の記述をもとに、同書を『エレミヤ書説教』の前に書いたと考える者もいるが、これは誤りであろう。アテーナイへの二度目の滞在時(245/6年)に書いた『雅歌説教』よりも前に『民数記説教』と『士師記説教』を書いたので(『雅説』序文)、『エレミヤ書説教』は240年から246年の間、さらに狭めれば241年から244年の間に書かれたと考えられる。

内容から、『エレミヤ書説教』は一般大衆向けの作品といえる。聴衆はすでに『詩篇説教』を聞いており、一方であとで『エゼキエル書説教』、『民数記説教』、『ヨシュア記説教』を聞くことになる。場所はカイサリアであった。

直接証言:『エレミヤ書説教』は、珍しくギリシア語原文が残っているオリゲネスの著作である(他には、『ヨハネ福音書注解』の一部分、『マタイ福音書注解』の一部分、『ケルソス駁論』、『祈りについて』、『殉教の勧め』、『ヘラクリデスとの対話』、『サムエル記上説教』、『諸原理について』の一部分など)。『エレミヤ書説教』のギリシア語写本には2つある。

第一に、スコリアレンシス写本(S)は、羊皮紙に書かれた11-12世紀のもので、フォリオ208から326までが『エレミヤ書説教』である(その前にはアレクサンドリアのクレメンス『富者の誰が救われるべきか』Quis dives salvetur)。Don Diego Hurtado de Mendozaがヴァネツィアで手に入れて、のちにエル・エスコリアル修道院図書館に収蔵された。タイトルにオリゲネスの名前ががないので、アレクサンドリアのキュリロスの作品と勘違いされていた。写本中には、写字生が知っていた欠落が3箇所(f. 293r [17.3.19]; f. 307r [19.12.1]; f. 314r [20.1.16])、写字生が知らなかった欠落が2箇所(f. 218v [3.2.27]; f. 305v [18.10.24])ある。また、文章が入れ替えられている箇所(f. 251r [10.8.11])や誤った数字を含んだ箇所もある。第二の写本は、ウァティカヌス写本623(V)で、16世紀の紙の写本の281-475頁が『エレミヤ書説教』であるが、S写本の複製なので重要度は低い。

間接証言:上記2写本の他には、古代の引用、カテーナ(連鎖注解)抜粋、そしてヒエロニュムスによるラテン語訳がある。古代の引用としては、パンフィロスとエウセビオスの『オリゲネス擁護』のルフィヌスによるラテン語訳があるが、この部分はS写本にもヒエロニュムスのラテン語訳にも並行箇所が存在する。より重要な古代の引用は、『フィロカリア』(ナジアンゾスのグレゴリオスとカイサリアのバシレイオス編)所収の2断片(Ph. IとPh. II)である。Ph. Iは説教の序文と考えられる。Ph. IIは3部分(Ia, Ib, Ic)から成る。Ph. IIのIbはヒエロニュムスのラテン語訳(L. II, 2.31-44)として残っている。『フィロカリア』での引用は忠実である。

預言書のカテーナには特に2つの主要写本がある。10世紀のChisianus R. VIII. 54と9世紀のVat. Ottobonianus gr. 452である。カテーナは、136のオリゲネスの断片を含んでいる。そのうち1つは『アフリカヌスへの手紙』、135はオリゲネスの名前はあるが作品名がない。後者のうち76は『エレミヤ書説教』のエレ20:12より前を、59はより後から最後(エレ51:35)までを扱っている。このうちより前の部分の多くはS写本にも見出されるが、より後の部分は失われたと考えられる。カテーナの抜粋は語り直しのために要約されている(ある部分は30行が8行に、またある部分は84行が18行になっている)。

エレ20:12より前の部分を扱う76のうち11はS写本にも見つからない。これらが本当にオリゲネスの説教なのかどうかは分からない。なぜなら、オリゲネスはエレミヤ書に関する注釈書を『説教』以外残していないからである。Nautinによると、断片Ⅰと断片Ⅵは解釈の傾向がかなり異なるという。とりわけ後者では、2つの疑問点がある。第一に「アクィラやシュンマコス」への言及があるが、通常オリゲネスは説教では校訂者の名前を挙げない(注解ではする)。第二に、親イスラエル的な記述があるが、通常そうしたことはしない。この11断片を、S写本に保存されたものとは異なるオリゲネスのエレミヤ書説教と主張するのは無謀である。

以上より、カテーナの抜粋は、S写本で損なわれた箇所をときに直すことができ、またS写本に保存された部分に続く説教に光を当ててくれる。

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