- 戸田聡「ピーター・ブラウンの古代末期理解をめぐって」、ピーター・ブラウン(戸田聡訳)『貧者を愛する者:古代末期におけるキリスト教的慈善の誕生』、慶應義塾大学出版会、2012年、253-84頁。
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P.ブラウンは、ローマのいわゆる没落史観に対する批判から、「古代末期(Late Antiquity)」という時代区分を提唱し、その時代をむしろ多様性の時代と捉えようとしたことで知られている。本論文はそのブラウンの史観に対する戸田のするどい再批判である。
ブラウンの主著のひとつである『古代末期の成立』と『貧者を愛する者』とを比較しつつ、戸田はブラウンの議論の変化を3点挙げている。
ブラウンの主著のひとつである『古代末期の成立』と『貧者を愛する者』とを比較しつつ、戸田はブラウンの議論の変化を3点挙げている。
- 古典期の帝国社会と古代末期との相違点を、社会現実の次元ではなく社会的想像力の次元において求めるようになった。
- ブラウンの古代末期像の中で主役を演じる者として、当初は広い意味での「聖人」に注目していたのに対し、より具体的に「司教」に注目するようになった。
- 当初はキリスト教に限定されないかたちで全体像を語っていたのに対し、しだいに古代末期の世界におけるキリスト教の重要性を指摘するようになった。
つまり、ブラウンの「古代末期」理解とは、首尾一貫したものではなく、多分に試論的なものであると戸田は指摘する。
こうしたブラウンの歴史観に対し、戸田は3点の評価を与えている。
- ブラウンの主張は厳密に資料に即したものというよりも、最近の研究動向に乗っかるかたちで進められる「歴史語り(narrative)」である。
- ブラウンは、H.ピレンヌのテーゼに即しつつ、古代末期社会を東と西とで区別せず、全体として扱うが、考古学的知見によって西ローマ帝国の没落は明らかであり、地中海世界の一体性を語ることは難しい。この点、ブラウンは西方の没落について巧妙に説明を避けている。
- ブラウンは、古代末期の社会を東と西とで区別せずに語ることのできる理由として、双方でキリスト教が普及したことを論拠としている。その議論の是非はともかく、古代末期の社会の特徴をキリスト教に求めることについては同意できる。
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