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2012年2月4日土曜日

ヒエロニュムスとウルガータ


  • Dennis Brown, "Jerome and the Vulgate," in A History of Biblical Interpretation: Volume 1, The Ancient Period, ed. Alan J. Hauser and Duane F. Watson (Grand Rapids, Mich.: William B. Eerdmans Publishing, 2003), pp. 355-79.

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聖書解釈史の論集から、ヒエロニュムスの章を読みました。著者はヒエロニュムスについて、以下の本も書いています。

080286161XVir Trilinguis: A Study in the Biblical Exegesis of Saint Jerome
Dennis Brown
Kok Pharos Pub House 1993-06
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今回読んだ論文は、ヒエロニュムスについての入門的な一篇ですが、ところどころはっとさせられるいい論文でした。トピックスとしては、大きく3つに分かれており、翻訳者としてのヒエロニュムス(ヘブライ語、翻訳の必要性、古ラテン語訳、ウルガータ翻訳、他の翻訳、正典論)と、聖書解釈(注解書、文字通りの解釈とアレゴリー的解釈、ユダヤの聖書解釈)、ヒエロニュムスの伝説となっています。以下、目についた部分を書いておきます。

James Barrはヒエロニュムスがヘブライ語の母音記号の読み替えによって異なった意味にするような聖書解釈の方法を、ユダヤ教のアル・ティクレーからの影響を受けていると考えましたが、Brownは、単にヒエロニュムスはヘブライ語の知識を自慢したかったのだろうと述べています。(p. 357)

現在ではヒエロニュムスは新約聖書に関して福音書のみを改訂したと考えられていますが、J. Chapmanのように、新約聖書全体を改訂したと考える人もいました。ヒエロニュムスが書簡などで引用するパウロ書簡の一節と、ウルガータの同箇所が一致しないことから、後者はヒエロニュムスの手によるものではないというのが一般的な考え方でしたが、Chapmanに言わせれば、福音書からの引用にも同じような不一致があるのだから、このことをもってパウロ書簡だけヒエロニュムスの手によるものではないとは言えないということになるのです。むしろこうした不一致は、ヒエロニュムスの引用の仕方が気まぐれであることを示すにすぎないともいえるわけです。とはいえ、CavalleraやKellyなど主要な研究者も通説を支持しており、Chapman説が現在どれだけの信憑性があるのかは分かりません。(pp. 359-60)



ヒエロニュムスが旧約聖書に関して、ヘブライ語原典の重要性を認識したのは、ベツレヘムに移り住んだあとの390年頃(つまりこの時期に、ヒエロニュムスはヘクサプラLXXを参照しながらラテン語写本の改訂をしていたのですが、ヘブライ語との相違があまりに多く、やはり直接翻訳するほかないと考えるに至った)というのが通説で、Brownもそれに従って解説していますが(p. 361)、私はこれには反対です。書簡を注意深く読むに、ヒエロニュムスがヘブライ語の重要性を認識したのは、382年あたりのローマ時代のことだと思われます。

ヒエロニュムスの聖書解釈には、アレクサンドリア学派、アンティオキア学派、ユダヤ教の三者からの影響が見られます。
Jerome was essentially an eclectic scholar. He searched diligently in the works of others and drew the best points from each, while striving to avoid their errors. This holds true also of the different "schools" of interpretation accessible to Jerome — Alexandrian, Antiochene, and Jewish. (p. 371)
 彼は注解において、まずアンティオキア学派と同様に、字義通りの意味を重要視します。その後アレクサンドリア学派、特にオリゲネスを範とするアレゴリー的解釈へと移りますが、重要なのは、字義通りの解釈や歴史問題をクリアせずにアレゴリーへと一足飛びに移ることはないということです。また、ヒエロニュムスは後年「オリゲネス論争」に巻き込まれますが、それ以降はやはりオリゲネスの解釈への依拠は減っていき、『エレミヤ書注解』などはもっぱら字義通りの解釈が中心となるということです。ユダヤ教の聖書解釈からの影響は、アガダー的な部分とハラハー的な部分の両方にまたがりますが、やはりBrownもオリゲネスからの盗用の可能性を指摘します。しかし彼が出している例は、おそらくG. Bardyの論文からの例であって、Brown自身の独自の見解ではなさそうです。

4 件のコメント:

  1. いつもながら、とても勉強になります。ありがとうございます。

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  2. 読んでいただき、どうもありがとうございます。何かお気づきのことがありましたら、教えてください。それと、貴ブログをリンクさせていただきました。よろしくお願いいたします。

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  3. 恐縮です。実は当方、先生方のようにアカデミックな世界の人間ではありません。ギリシア語もヘブライ語も、素人に毛も生えていないレベルです。ただ、一カトリック信者としての立場から、いろいろ興味のある分野をつまみ食いしているだけの、人間です。
    ですので、いつ馬脚を現わしても不思議ではありません(笑)。
    くりかえしますが、アカデミックな世界に属していない素人ですので、先生の御参考になるようなものは、なにもないかもしれません。あくまで「素人芸」的なものと、ご了承ください。

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  4. コメントありがとうございます。私は「先生」ではなく、勉強中の「学生」ですので、これまでの記事にも間違いなどあるかもしれません。何かお気づきのことがありましたら、ご指摘いただけると幸いです。備忘録のような私の記事が貴殿のお役にたつか分かりませんが、どうぞよろしくお願いいたします。

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