- C.T.R. Hayward, "The Aramaic Targums," in The New Cambridge History of the Bible 1, ed. James C. Paget and Joachim Schaper (Cambridge: Cambridge University Press, 2013), 218-41.
The New Cambridge History of the Bible: Volume 1, From the Beginnings to 600
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Cambridge University Press
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ヘブライ語聖書のアラム語訳を指す「タルグム」の語は、ヒッタイト語起源ではないかとされている。五書には三種類の完全なタルグムがある。第一は、タルグム・オンケロス。オンケロスはユダヤ人改宗者で、ラビ・エリエゼルとラビ・ヨシュアの二人のパレスチナの賢者たちから教えを受けた。一般的にオンケロスはバビロニア由来とされており、確かにバビロニア・タルムードと同様に東部アラム語の特徴も持っているが、パレスチナで成立した死海文書のアラム語と似ているところもある。そのため多くの研究者たちは、もともとパレスチナで成立したあとに(プロト・オンケロス)、バビロニアにもたらされ、ラビの学塾で最終的に編纂されて公認版となったと考えている。
第二は、タルグム・ネオフィティ(MS Neophyti 1)。パレスチナのタルグムで、アレハンドロ・ディエズ・マチョによって、1956年にヴァチカン図書館で発見された(オンケロスと誤認されていた)。エルサレム・タルムードと似たアラム語である。欄外注や行間注があることが特徴的である。長い挿入がありつつも、基本的にはヘブライ語テクストに忠実である。11世紀のナタン・ベン・イェヒエルが引用している。ミシュナーと矛盾するような律法解釈を含んでいる。成立はおそらく4世紀頃か。
第三は、タルグム・偽ヨナタン。多くの拡張的な解釈を含むため、ヘブライ語の五書の二倍の長さになっている。言語的にはオンケロスと似ているが、拡張的な解釈についてはネオフィティ、フラグメント、その他のラビ文学と共通したものを持っている。他のラビ文学にはない解釈も保存している。創21:21の解釈で、ムハンマドの妻と娘に言及していることから、最終的な編纂は少なくともイスラーム期と見られる。ただし原型はラビ的権威が明確に拒絶した解釈を多く保存していることから、タルムード期以前と考えられる。
第三は、タルグム・偽ヨナタン。多くの拡張的な解釈を含むため、ヘブライ語の五書の二倍の長さになっている。言語的にはオンケロスと似ているが、拡張的な解釈についてはネオフィティ、フラグメント、その他のラビ文学と共通したものを持っている。他のラビ文学にはない解釈も保存している。創21:21の解釈で、ムハンマドの妻と娘に言及していることから、最終的な編纂は少なくともイスラーム期と見られる。ただし原型はラビ的権威が明確に拒絶した解釈を多く保存していることから、タルムード期以前と考えられる。
これらの完全な五書のアラム語訳に加えて、部分的な翻訳もある。第一は、フラグメント。これは西部アラム語で書かれたパレスチナ・タルグムである。解釈を穏当に付加するネオフィティと拡大解釈を含む偽ヨナタンの中間くらいの自由度である。第二は、カイロ・ゲニザの7つの断片。これもパレスチナ・タルグムである。断片は7世紀から14世紀のもの。そして第三は、タルグムのトセフトット。オンケロスとパレスチナ・タルグムの両方の要素を持った言語的特徴を持っている。
預言者については、完全なタルグムはひとつだけである。すなわち、タルグム・ヨナタンである。ヨナタン・ベン・ウジエルに帰される。バビロニア・タルムードでしばしば引用される。オンケロスと同様に、もともとイスラエルの地で成立したが、のちにバビロニアで最終的に編纂されたと考えられる。オンケロスよりも長く、またより詳細な解釈的付加が見られる。そうした解釈は他のラビ文学でもおなじみのものが多い。
諸書については、公認版のタルグムは存在しない。しかし、箴言、歴代誌、ヨブ記、詩篇、5つのメギロットなどはアラム語に訳されている。エステル記には2つか3つの訳があり、特にその二つ目は原文からかけ離れた長い解釈を含んでいる。
これら各種タルグムの共通した関心は、彼らが思うヘブライ語テクストの正しい意味である。翻訳者たちにとって聖書は無謬の書である。それゆえに、聖書にある矛盾、不明瞭さ、不合理さは、読者が表層の意味をこえて聖書の完全な意味を知るためのシグナルの役割を果たしていると理解される。そこで、タルグムは次のような操作を図る。たとえば、明らかな矛盾の排除、聖書の一貫性への関心、聖書に見られる反復表現への意味づけ(associative or complementary translation)、イスラエルや聖書の偉大の人物への批判の最小化、現在の問題解決を図るためにテクストを反転させた翻訳(converse translation)などである。
神の表現においては、神聖四文字は使われない。タルグムは神人同型的な表現を和らげ、何事も神自身ではなく「神の面前で現された」とする。こうした婉曲表現はもともとペルシアの宮廷で使われたものである。詩的表現を散文化することも多い。シェヒナーをはじめとする神の呼び名はほとんどが他のラビ文学にも出てくるが、タルグム独特のものとして「メムラ(言葉・発話)」がある。
タルグムは複数の解釈を紹介することがあるが、そうした解釈は別個に現れるのではなく、テクストの表面にシームレスにひとつの解釈のように現れる。それが複数の解釈であることは、もとのヘブライ語テクストの知識がないとわからない。一方で、律法解釈に関してはどのタルグムもひとつの解釈を提示する。タルグム・オンケロスの律法解釈はラビ・アキバのハラハー的ミドラッシュと一致しており、それはとりもなおさずバビロニア・タルムードと一致しているということである。
タルグムのジャンルの可能性としては、ミドラッシュ、再話聖書、翻訳が挙げられる。ミドラッシュと似たところを持っているが、次の3点に関して大きく異なっている。第一に、タルグムはヘブライ語テクストを翻訳したものだが、ミドラッシュはそうではない。最も敷衍が見られる雅歌タルグムやエステル記のタルグム・シェニですら、翻訳という枠組みを失っていない。第二に、タルグムはラビの名を挙げて引用することは決してないが、ミドラッシュはしばしばする。タルグムには引用を示す「ダヴァル・アヘル」のような定型句は出てこない。そして第三に、タルグムは底本のヘブライ語テクストの全体を提供するのに対し、ミドラッシュは特定のレンマだけを挙げる。
再話聖書の代表例は、ヨベル書、外典創世記、聖書古代誌、ヨセフス『ユダヤ古代誌』などであるが、タルグムとはやはり次の3点で異なっている。第一に、再話聖書はしばしば聖書のエピソードの一部分を完全に削除するが、タルグムはそうではない。第二に、再話聖書は聖書の話の順番を大きく再編成することがあるが、タルグムはそうではない。そして第三に、タルグムが底本のヘブライ語テクストのすべての語に注意を払うのに対し、再話聖書は必ずしもそうしない。
ではタルグムは翻訳なのだろうか。タルグムには翻訳に加えてエクストラの情報を組み込むことがあるし、敷衍することもある。そこでSamelyは、タルグムとはan Aramaic narrative paraphrase of the biblical text in exegetical dependence on its wordingだと定義している。
タルグムの社会的な場所はシナゴーグである。ミシュナー(メギラー4.10)には、読まれるべき(あるいは読まれるべきでない)聖書箇所や解釈されるべき(あるいは解釈されるべきでない)聖書箇所が挙げられているが、それはシナゴーグにおける問題である。タルグムは教育的あるいは説教的な目的のもとで、ヘブライ語を解さない者から解す者まですべてを対象としている。申命記シフレ(161)によると、タルグムが学塾で用いられていた可能性が示唆されている。神への崇敬が聖書に、聖書がタルグムに、タルグムがミシュナーに、ミシュナーがタルムードに、タルムードが行為に、行為が畏れに人々を導く。つまり、ミシュナーはタルグムによる前知識を必要としているというのである。このように、タルグムは個人にも共同体にも宛てられているが、非ラビ的解釈を含むことから、ラビの世界の外で生じたものではないかと考えられる。それがのちにバビロニアでラビたちに公認されたということである。
タルグムの成立時期を特定するのは難しい。最終的な編纂の時期と、文書として成立した時期も異なる可能性がある。成立時期の議論については、Renee BlochとGeza Vermesらによる先駆的な研究がある。すなわち、タルグム中の個々の解釈と、年代特定が可能な文書中の平行箇所を比較するという方法論である。他にも、聖書の地名を同時代のものに勝手に変えること、ギリシア語やラテン語からの借用語、アラム語の形態などを見ることで、年代を特定することができる。こうした分析の結果、オンケロスは後1世紀から2世紀初期に成立し、最終的な編纂はバビロニアで5世紀以前になされたと考えられる。ヨナタンも同様。ネオフィティは4世紀初期。偽ヨナタンは7世紀初期。フラグメントはネオフィティと偽ヨナタンの中間くらい。トセフトットは特定不可能。諸書のタルグムは6世紀以降。
しかし、これら以前にも、クムランには聖書のアラム語訳が存在した証拠がある。レビ記(4QTgLev = 4Q16)とヨブ記(4QTgJob = 4Q157, 11QTgJob = 11Q10)である。これらは、既存のタルグムよりもシリア語のペシッタにより近いという見解がある。ヨブ記に関しては、ヘブライ語のヨブ記以外からも影響を受けている。つまりクムランのアラム語訳ヨブ記は初期の非ラビ的タルグムを代表している。
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