- Geza Vermes, The Complete Dead Sea Scrolls in English (Fiftieth anniversary edition; London: Penguin Books, 2011), pp. 49-66.
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死海文書には、厳密な意味での歴史テクストは見つかっていない。聖書においても歴史は預言の中で語られ、それはのちに終末論へとかたちを変えたが、クムランにおいては歴史は主として聖書解釈の中で語られている。これは、聖書の中に自分たちの共同体の過去から現在までの出来事を読み込むペシェルのような解釈法を用いていたからである。クムランの歴史は、こうした非歴史文書の他には、考古学的データと外部資料(ヨセフス、マカベア書、フィロン)などから再構成される。
歴史資料を欠く死海文書の中で、それでも比較的歴史的な情報を含んでいるものとしては、『ダマスコ文書』、『ハバクク書注解』、『詩篇注解』、『証言(4Q175)』、『ナホム書注解』(4Q448、4Q339、4Q468eと共に、実際の歴史上の人物の名前を含む)などがある。
『ダマスコ文書』によれば、ネブカドネザルによってユダ王国が攻略された前586年から「390年後」である「怒りの時代」、すなわち前196年に共同体が始まり、その後20年の手探りの時代を経て、前176年頃に「義の教師」が登場するという。Vermesはこうした数字は、ユダヤ人作家の常としてあまり信頼できるものではなく、ダニエル書で象徴的に描かれる490年などにかこつけたものであろうと述べる。
死海文書にたびたび現れる「キッティーム」は、もともとは「海辺から来た人々」を意味したが、『第一マカベア書』(1:1、8:5)ではギリシア人を、七十人訳ダニエル書(11:30)ではローマ人を指している。多くの場合、当時の支配者だが必ずしもユダヤ人の敵ではないグループを意味する。
『ダマスコ文書』で言及される「怒りの時代」は、アンティオコス4世とヤソンによる「ヘレニズム改革」(前175年頃)と同一視される。Vermesは、ここから「あざけりの人」、あるいはそれと同一人物と考えられる『ハバクク書注解』の「悪の祭司」を同定しようとする。悪の祭司はユダヤ人の指導者であり、祭司的な権力と世俗の権力を併せ持っていた。それゆえに、悪の祭司とはエルサレム神殿の大祭司の誰かだったと考えらえる。そしてアンティオコス4世の治世(前175年以降)からクムラン共同体設立(前150-前140年)までの間でこれに該当するのは、ヤソン、メネラオス、アルキモスら親ギリシア派と、マカベア兄弟のヨナタンとシモンである。Vermesは、この5人のうちで悪の祭司と思われるのはヨナタンとシモン、特にヨナタンであるという。
他にも、さまざまな同定が可能である。たとえば、「なめらかなものを求める者たち」あるいは「エフライム」を絞首刑にした「怒れる獅子」は、パリサイ派を多数殺したアレクサンドロス・ヤンナイオスであり、「マナセ」はサドカイ派、そして「ダマスコ」はクムランのことを指しているという。
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