- Joseph Geiger, "Form and Content in Jewish-Hellenistic Historiography," Scripta Classica Israelica 8 (1988), pp. 120-29.
本論文は、ヘレニズム期のユダヤ人による歴史文学の概観である。Felix Jacobyがギリシア人歴史家の著作のコレクションを作成したとき(Die Fragmente der griechischen Historiker)、彼は「ギリシア人」を「ギリシア語で著作した人」としたので、ユダヤ人であってもギリシア語で著作をものした者も、このコレクションに収録されることになった。しかし、ギリシア語で書いたユダヤ人歴史家が、他のギリシア人作家と何も変わらないのか、それとも彼らがギリシア語で書いたことで何らかの変化があったのかは問われるべき問いである。
論文著者によれば、第二マカベア書は形式はヘレニズム的で内容はユダヤ的な文書であるという。第二マカベア書は、キレネ人ヤソンの5巻の書物を要約したものだと本文の中に書いてあるが、長い歴史ものの要約(epitome)というのは、ヘレニズム期の流行りだったことが知られている。つまり、第二マカベア書において、この要約というギリシアの文学形式に則ったことで、内容にも少なからぬ影響があるのである。
ひとたび作家が書物を書くことを決めると、彼は不可避的に文学ジャンルを考えねばならず、そしてどのジャンルに自分がこれから書く作品が属するのかを決めなければならない。しかも、ギリシアの文学ジャンルはヘブライ文学やアラム文学の要求とは必ずしも一致していないため、ヘブライ文学の特徴を完全に維持したままギリシア語の著作を書くことは難しいのである。こうしたことから鑑みるに、キレネ人ヤソンの著作も、おそらく王や政治家の業績に関する歴史記述であっただと思われる。こうした文学は、一連の統治者の歴史を語ることで、ある国の歴史を描こうとするものである。
こうしたギリシアの歴史記述に沿って書いたユダヤ人歴史家として、論文著者は、『ユダヤの王たちについて』を書いたデメトリオス、『ユダヤの王たちについて』を書いたエウポレモス、そして『系図に従ったユダヤの王たちについて』を書いたティベリアのユストスを例に挙げている。これらのタイトルについて考えると、当時のヘブライ文学においては、まだタイトルをつける方法が定まっていなかったが、この歴史家たちの作品タイトルは、明らかにギリシアの歴史文学の作法に則ったものである。また、彼らは自分たちの作品を、自分たちの時代にまで繋げているが、これもギリシアの歴史文学の作法といっていい。それは、自分自身を歴史の中の登場人物と考えているからである。