2017年2月23日木曜日

クムランの知恵文学 Goff, Discerning Wisdom

  • Matthew J. Goff, Discerning Wisdom: The Sapiential Literature of the Dead Sea Scrolls (VTS 116; Leiden: Brill, 2007).
本書は、死海文書に含まれる知恵文学を網羅的に、かつ専門的に扱った研究書である。著者は、博士論文を書籍化した前作The Worldly and Heavenly Wisdom of 4QInstruction (Leiden: Brill, 2003)でも知恵文学を扱った、この分野のエクスパートである。

著者は、ややもすると曖昧になりがちな「知恵文学」の定義を以下の4つの特徴に求めている:
  1. 教育的意図(pedagogical intent)があること
  2. テーマ的な類似性(themaic affinity)があること
  3. キーフレーズやモチーフ(key phrase and motifs)があること
  4. 知恵文学の伝統における発明(innovation)があること
こうした定義のもとに検証した結果、著者は、クムランの知恵文学は教育的かつ幸福主義的であり、通常生活の範囲に関連した実用的な教育的指導を提供することに関心を持っていると結論付けた。さらに特筆すべきは、終末論的な伝統からの強い影響があること、最高の知恵は神からの啓示であり、特にトーラーの中に見つかると考えていること、そして敬虔さと礼拝への強い関心を持っていることなどが挙げられる。多くの文書は前2世紀から前1世紀にかけて作成されたと考えられるが、さまざまに異なる特徴をも持っているために、単一の学派に帰することはできない。他にも、ソロモンへの言及の欠如、神義論や認識論的な絶望の欠如、知恵の周辺化、祭司的な見解の欠如、歴史的なマーカーの欠如、歴史への紙のドラマティックな介入の待望、女性を闇とエロティックに結びつける女性嫌悪などが指摘される。

むろん著者は、聖書の知恵文学にはあるがクムランの知恵文学には欠落している特徴が存在することも指摘している。逆に聖書の知恵文学にはないがクムランの知恵文学にはある特徴もある。このうち後者の場合を、著者はしばしば新しい「発明」だと見なす場合があるが、それは早計というものだろう。さらに、エノク文学や『ヨベル書』のように、明らかにクムランのセクト的文書に大きな影響を及ぼしているが、それ自体は非セクト的である文書があることから類推されるように、聖書の知恵文学とクムランのそれにも同様の関係性が見られるという。

著者はクムランの知恵文学を議論するに当たって、主要な比較対象として『シラ書』を取り上げている。『シラ書』を経由することで、著者は、非セクト的文書である『4Q教育』や『4Q謎の書』が、セクト的文書である『共同体の規則』中の「二つの魂の章」(3:13-4:26)に影響を与えていること、『4Qマスキールの言葉』がクムラン由来の文書であること、そして『4Q義の言葉』が知恵文学を改訂・翻案していたことなどを明らかにした。

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