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2015年2月18日水曜日

悪の祭司について VanderKam, "The Wicked Priest Revisited"

  • James C. VanderKam, "The Wicked Priest Revisited," in The "Other" in Second Temple Judaism: Essays in Honor of John J. Collins, ed. Daniel C. Harlow, Karina Martin Hogan, Matthew Goff and Joel S. Kaminsky (Grand Rapids, MI: Eerdmans, 2011), pp. 350-67.
The The "Other" in Second Temple Judaism: Essays in Honor of John J. Collins (Calvin Institute of Christian Worship Liturgical Studies)
Daniel C. Harlow

Wm. B. Eerdmans Publishing 2011-02-08
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本論文は、さまざまな仮説が提唱されている「悪の祭司」の正体について、『ハバクク書注解』(1QpHab)を中心に再検証したものである。悪の祭司という呼称が示す対象としては、単数の大祭司説(Mathias Delcor, Karl Elliger, Geza Vermes)と複数の大祭司説(Andre Dupont-Sommer, William Brownlee, Adam Simon van der Woude)とがある。悪の祭司は義の教師と同時代にいたと考えられるので、前者の詳細が分かれば自然と後者のことも分かるはずである。悪の祭司の正体について最も有力な説は、Vermesによるハスモン王朝のヨナタン(在位前152-前42年)説であり、これはRoland de Vauxによるクムラン遺跡の年代測定にも一致するが、Jodi Magnessがその年代測定に異を唱えており、それが正しいとするとVermesの説も変更を余儀なくされる。著者によれば、初期の研究者たちには、『ハバクク書注解』に書かれた悪の祭司像を真に受けすぎているために、実像が見えないのだという。

第一洞窟で発見された『ハバクク書注解』において、悪の祭司という言葉は、ハバ2:5-17の注解部分に5回現れる。それらによると、悪の祭司は傲慢な人物だったという。それだけでなく、彼は民から富を奪う権力を最初は持っていたが、やがて民によって復讐された。これはつまり、悪の祭司は祭司であるだけでなく、強力な軍事的指導者でもあったことを示しており、それはすなわちハスモン朝以前の祭司では考えられないということを意味する。しかし富に目がくらむ前はよい祭司だったという描写も見られる。よい祭司であるがゆえに、神に反する暴力的な民の富を収奪したのだが、やがて民全体から富を奪うようになって悪の道に染まったのだった。

興味深いことに、悪の祭司の描写において、動詞はほぼ必ず完了形あるいはヴァヴ倒置未完了形になっている。すなわち、悪の祭司の動作はまったく預言や未来に帰されていない。一方で、悪の祭司は浄不浄の問題と密接に関わるような描写を施されている。こうした悪の祭司をあるグループが制裁したように描かれている。その制裁とは、折檻、悪の裁き、病気、肉体的な拷問を含んでいた。悪の祭司が病気に罹ったのだとすると、第一マカバイ記13:12-24によるとヨナタンはいかなる病気にも罹っていないので、悪の祭司=ヨナタン説に合致しないが、これは民が悪の祭司に対し極めて辛辣だったことを表現しているのだと考えることもできる。

著者によると、悪の祭司の描写を検証することでさまざまな可能性を挙げることはできるが、はっきりと分かっているのは、悪の祭司は、イスラエルを支配して悪に染まる以前にはよい評判を持っていたことと、民の富を収奪して復讐されたことぐらいであるという。しかし、さまざまな可能性を考慮しても、ヨナタンは依然として高い確率で悪の祭司の正体であるといえる。

2 件のコメント:

  1. 当初はハスモン家に共鳴しながらも後に離れていった人々というと、やはり第一マカバイ記に登場するハシダイと呼ばれる一団が思い起こされ、ハシダイ側の視点に立てばハスモン家こそまさに「悪の祭司」そのものであったに違いないとも思われますが、だとしてそれで「義の教師」の正体にすぐ結び付くかどうかは分かりません。

    想像を逞しくすれば、「教師」というからには、祭司ではなく、何らかの預言者的カリスマの持ち主だったのでしょうか???

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  2. Josephologyさん、コメントをありがとうございます。義の教師と悪の祭司の同定は難しいですね。悪の祭司に関しては、現在ではG. Vermesの説(ヨナタン説)が有力なようですが、フローニンゲン仮説のような複雑な説もあるので、なかなか難しいところです。

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