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2014年10月7日火曜日

雅歌タルグムの歴史理解 Menn, "Targum of the Song of Songs"

  • Esther M. Menn, "Targum of the Song of Songs and the Dynamics of Historical Allegory," in The Interpretation of Scripture in Early Judaism and Christianity: Studies in Language and Tradition, ed. Craig A. Evans (Sheffield: Sheffield Academic Press, 2000), 423-45.
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5世紀から8世紀にかけて成立したとされる雅歌タルグムは、単なる翻訳ではなく、雅歌全体を出エジプトからメシアの時代までの歴史として解釈したものである。雅歌ラバーやアガダット・シール・ハシリームなど、雅歌に関するラビ文学も、雅歌をイスラエルと神との歴史として見なしてはいるが、雅歌タルグムのみがそれをひとつながりのものとして提示している。

男女の愛を描き、神の名が出てこない雅歌は、他の聖書文書と軌を一にしていないと見なされることがあった。そこで雅歌タルグムは雅歌を神とイスラエルとの関係のメタファーとして解釈することで、他の文書との不協和音を解消しようとしたのである。これは、ギリシア神話の非倫理的なエピソードをアレゴリカルに解釈しようとした運動と似ている。しかし、こうした通常の寓意的解釈が、具体的なエピソードを一般化していく(particular → universal)のに対し、雅歌タルグムの寓意的解釈は、男女の愛という一般的なテーマを神とイスラエルの親密さへと具体化している(universal → particular)。そういった意味で、雅歌タルグムの寓意的解釈は、フィロンのようなヘレニズム・ユダヤ文学におけるそれとも異なっている。

イスラエルの歴史観は直線的で不可逆なものとされることが多いが、雅歌タルグムの歴史理解はむしろ、罪と悔い改めの反復に基づいている。雅歌タルグムは歴史を網羅的に描くことを目的としているわけではなく、特定の目的のためである。Mennによると、雅歌タルグムがこのような歴史理解をするのには、次の3つの目的があるという。
  1. 正典的(canonical purpose)
  2. 実践的(practical purpose)
  3. 遂行的(performative purpose)
正典的目的。雅歌タルグムは、聖書の中での雅歌の役割を周辺的なものではなく、むしろすべての文書をつなぐような核にするために、雅歌を神とイスラエルの歴史として解釈している。雅歌タルグムは、雅歌は世俗的な愛の歌ではなく、霊感を受けた聖なる書物であると考えている。いうなれば、雅歌を預言書ジャンルにあるものと見なしているのである。高度にシンボリックなため一見分かりづらい点、あるいは神とイスラエルとが男女に喩えられている点などは、共に預言書の特徴でもある。

実践的目的。雅歌タルグムは、外国人の支配を受ける中でユダヤ人がユダヤ的生活を守っていくために、雅歌を神とイスラエルの歴史として解釈している。バビロン捕囚を含意しつつも、雅歌タルグムはローマやイスラーム支配下のユダヤ人を対象としている。雅歌タルグムが、そうした捕囚・離散にあって最も重要だと考えたのは、ラビ的な価値観(rabbinic value)であった。すなわち、宗教的態度、祈り、シナゴーグへの出席、学塾などを維持していくことである。そのため、雅歌タルグムはモーセのような預言者を賛美はするが、それと同時にイスラエルの民をも賛美している。これはすなわち、待っていれば預言が向こうからやってきた時代は終わり、自らトーラーを学んで神の声を聞かなければならなくなったことを表している。

遂行的目的。雅歌タルグムは、のちの者たちが最終的な贖いを得ることができるために、雅歌を神とイスラエルの歴史として解釈している。雅歌タルグムは、イスラエルの人々は救いを経験するたびに神を賛美する歌を歌ってきており、全部で十歌あると考えている(第一にアダムが罪を見逃されたとき、第二にモーセが海を渡ったとき、第三にモーセが砂漠で水を得たとき、第四にモーセがこの世を去るとき、など)。雅歌はそのうち第九番目であって、第十歌は贖いのときに歌われる。ユダヤ人はこの第十歌を歌うことができるまで、イスラエルを存続させなければならないのである。

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