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2019年1月14日月曜日

ミュンヘン写本の発見 Perrone, "Discovering Origen's Lost Homilies on the Psalms"

  • Lorenzo Perrone, "Discovering Origen's Lost Homilies on the Psalms," Auctores Nostri: Studi e testi di letteratura cristiana antica 15 (2015): 19-46.

2012年4月、Marina Molin Pradelは、ミュンヘンのバイエルン州立図書館でギリシア語写本の新しいカタログを作成していたときに、12世紀初頭に作成された写本Codex Monacensis Graecus 314を発見した。その写本には、不詳の著者による詩篇の説教が29篇収められていた。驚くべきことに、そのテクストは、(カテーナに散在する断片以外では)ルフィヌスのラテン語訳で3篇だけ残っていたオリゲネスの詩篇説教と内容が酷似していた。このことに気づいたPradelは、同年5月に論文著者であるPerroneに写本の鑑定を依頼したのだった。鑑定の結果、6月12日に、この写本は新しく発見されたオリゲネスのギリシア語原典テクストであると発表された。

2007年にエアフルトでアウグスティヌスの説教が新たに発見されたときのように、図書館のカタログを作成しているときに新写本が発見されることはときに起こる。ミュンヘン写本(全371葉)の場合は、1ページ目にミカエル・プセロスの作であると書かれていたために、今まで誰もオリゲネスの作だとは考えなかったわけである。おそらくコンスタンティノポリスで12世紀に作成され、16世紀にアウクスブルクの好事家Johann Jakob Fuggerがヴェネツィアで購入して、ミュンヘンに持ち込まれたものらしい。

論文著者は、外的証拠と内的証拠から、本写本に収録された詩篇説教がオリゲネスのものであると同定している。写本の外的・構造的特徴は以下のようである。まず、ギリシア語で残るオリゲネスの説教としては最長である(次点は20篇残る『エレミヤ書説教』)。詩篇説教としてはルフィヌス訳のみ残るものがあと5篇あり、全部で34篇あるわけだが、ヒエロニュムス『書簡33』によるともともとオリゲネスの詩篇説教は120篇あったそうなので、現存するのは4分の1以下ということになる。

ルフィヌスは翻訳集成を作成したときに、詩篇説教36-38は「倫理的釈義」であると見なした。ミュンヘン写本もまたそうした選集化の結果であると考えられるが、どういう基準で作成されたかは不明である。ひとまず言えるのは、オリゲネスの詩篇説教の個別の集成からさらに集められたよせあつめではないかと思われる。ヒエロニュムス『書簡33』にあるオリゲネスの著作リストやヒエロニュムス『詩篇説教』などを参考にするしかない。著作リストで書かれた説教の篇数と完全に一致するのは、詩73の3篇、74の1篇、75の1篇、77の9篇、80の2篇、81の1篇である。また詩篇15の第2説教はパンフィロス『オリゲネス擁護』に引用されており、それはルフィヌスのラテン語訳で残っている。比較すると、ルフィヌスの翻訳は忠実である。

内的証拠は以下のようである。文学的側面では、架空の対話者を想定し、仮の質疑応答をするという特徴が共通している。オリゲネスはテクストの釈義に入る前にそうしたディアトリベーを行い、より深い意味へと至ろうとすることが知られている。また「いわば」という表現のあとにハパクス・レゴメナを紹介したり、よく知られた言葉の横にそれをもじった新語を置いたり、テクストの意味を理解するように聴衆に呼びかけたり(アポストロフェー)、問答形式(quaestiones et responsiones)で説明したりしている。

歴史的・教義的側面では、当時の教会の様子を窺い知ることができる。共同体はキュリアコンという場所および機会に集まり、その集まりはシュナゴーゲーと呼ばれる。「集いの時間」と「祈りの時間」がある。司教はときにパパと呼ばれている。罪を犯した者はそれを神の前で、ついで教会で働く「よき博士ら」に対して告白することが求められている。オリゲネスの特徴として知られる、劇場的・論争的な比喩表現が見られる。ユダヤ・キリスト者を警戒し、ユダヤ教とキリスト教を厳密に区別しようとしているのは、当時のキリスト教共同体にユダヤの祭りに魅力を感じる者が多かったからである。他にも、キリスト教の異端的思想(マルキオン、ウァレンティノス、バシレイデスら)の支持者らも論争のターゲットになっている。またエルサレムの地理に詳しい。

詩篇説教の著者は、人間性もオリゲネスに似ている。とりわけ殉教者を高く評価していることは重要である。聖書解釈のゴールを霊的な成長や完成と見なすことも同様である。詩篇80の第2説教において、聖書とその隠された意味について質問する者たちに対し、聖書全体を記憶すること意外にそれを知る方法はないと述べているところなど、オリゲネスの特徴をよく表している。こうしたことから、論文著者はミュンヘン写本の説教の著者はオリゲネスであると同定している。

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