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2019年1月19日土曜日

オリゲネス『エレミヤ書説教』のヒエロニュムスによるラテン語訳 Klostermann, "Die lateinische Übersetzung des Hieronymus"

  • Erich Klostermann, Die Überlieferung der Jeremiahomilien des Origenes (Texte und Untersuchungen zur Geschichte der altchristlichen Literatur 1-3; Leipzig: J.C. Hinrichs'sche Buchhandlung, 1897), 19-31.

ヒエロニュムスが380年にコンスタンティノポリス滞在中に翻訳したのは、オリゲネスの『エレミヤ書説教』14篇と『エゼキエル書説教』14篇である。このことは、ルフィヌス、カッシオドルス、ラバヌス・マウルス、ボーヴェのヴァンサン、ギスレリウスらが証言している。

ヒエロニュムスが訳さなかったところは、オリゲネスの異端的な勧めを含んでいたゆえにかなり損なわれた。すなわち、人間の魂の先在や堕罪などである。ヒエロニュムスはこの説教を訳した当時にはこうした異端的な箇所にも耐えられた。ギリシア語テクストとラテン語訳の説教の順番が異なるのは、ヒエロニュムスの序文によると、彼の仕業ではなく、もともと混乱していたからである。

『エレミヤ書説教』全21篇中、ヒエロニュムスが訳したのは14篇であり、そのうち2篇はそのラテン語訳でのみ残っている。その2篇以外の12篇にはギリシア語原典とラテン語訳が共に存在するわけだが、これらの翻訳テクストの本文批判的な価値は疑わしい。というのも、ラテン語訳テクストはお世辞にも最善の状態とは言えず、最後の編者によって、あるときはラバヌス・マウルスの抜粋から、またあるときはギリシア語原典に従って改定されているという体たらくだからである。それゆえに、多くの箇所がいまだに改善されるのを待ち望んでいる状態といえる。

ラテン語訳は有益な情報を与えてくれる。HuetとDelarueはラテン語訳を用いて、説教第17篇の欠落を埋めたり、第10篇と11篇のページ混合を発見したりしたのみならず、細部も改善した。しかし、ラテン語訳はまだ組織的に活用されているとはいえない。VallarsiがHuetとDelarueの間により有益なテクストをもたらしたので、ラテン語訳は見過ごされてしまったのである。

ラテン語訳を重視する際には、次の2点に注目しなければならない:第一に、ヒエロニュムスが翻訳の底本としたギリシア語本文がどの程度よいものなのか。第二に、ヒエロニュムスがギリシア語本文をどの程度伝えるつもりなのか。これら2点は、ヒエロニュムスのギリシア語能力を疑問視しないという前提の問いである。ただし、『エレミヤ書説教』に限らず、ヒエロニュムスは難読箇所に出くわすと、意味を十分に理解しないまま訳したり、時間をかけず拙速に訳した結果、誤りを犯すこともあった。『エレミヤ書説教』でそうした誤りがあっても驚くにはあたらないが、それが絶対にヒエロニュムスによる誤りだと証明するのは難しい。テクスト伝承の不十分さや自由訳の可能性も考慮しなければならない。

そこでヒエロニュムスの翻訳の方法論に関する情報が必要となる。『書簡57』には重要な原則がある。オリゲネスのテクストは、聖書のように語順に神秘があるわけではないので、逐語訳する必要はない。言葉を抜かしたり加えたり変更したりすることで、言葉ではなく意味を伝えることを重視した。その際に、ヒエロニュムスは古今東西の有名作家、福音書記者、使徒、七十人訳者らなど例を引いた。彼は、よい翻訳は原典が最初の読者に与えたのと同じ印象を与えるべきだと考えた。例の数がとても多いことから、ヒエロニュムスが翻訳に関していかに高い自由度を自らに許しているかが分かる。この自由度の高さは、本文批評のためにラテン語訳を用いるという我々の目的にとっては障害となる。

『エレミヤ書説教』においても、ヒエロニュムスは、読者の理解を容易にするために、パラフレーズ、省略、挿入のほかに、表現の強化や誇張、装飾、様式の追加、虚栄心や学術的な拘りなどへの傾向を示している。「なるべく簡潔な翻訳する」という断言には、実際の例を見てみると、疑いを持たざるを得ない。むしろルフィヌスが批判するように、まったく逆の状態になってしまっている(『弁明』2.27)。ルフィヌスはヒエロニュムスがオリゲネスの異端者といった敵の方法に従っているとして、『ルカ福音書説教』から2例を挙げている。とはいえ、ヒエロニュムスの底本であるギリシア語本文は、我々が持っている唯一のギリシア語写本(S写本)よりはるかに優れているときもある。

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