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2019年1月23日水曜日

ヒエロニュムスによるオリゲネス『ルカ福音書説教』のラテン語訳について Lienhard,"Introduction"

  • Joseph T. Lienhard, Origen: Homilies on Luke, Fragments on Luke (The Fathers of the Church 94; Washington, D.C.: The Catholic University of America Press, 1996), xxxii-xxxix.

Homilies on Luke (Fathers of the Church Patristic)
Origen
Catholic Univ of Amer Pr
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オリゲネス『ルカ福音書説教』のラテン語訳を、ヒエロニュムスはパウラとエウストキウムの依頼で作成した。パウラについては『書簡108』が詳しい。ただし、パウラらの依頼はヒエロニュムスの動機付けのすべてではない。おそらくアンブロシウスへの反感も大きな理由である。384年に新教皇を選ぶ際にアンブロシウスが自分の味方をしなかったことを、ヒエロニュムスは根に持っていたのである。

そこで、アンブロシウスが『聖霊について』を381年に出版すると、ヒエロニュムスは387年にディデュモスの同名の著作をラテン語訳し、いかにアンブロシウスがディデュモスに依拠しているかを曝した。また390/1年にアンブロシウスが『ルカ福音書注解』を出版すると、すぐさまヒエロニュムスはオリゲネス『ルカ福音書説教』をラテン語訳したのだった。そして序文で「別の鳥の色鮮やかな羽で自分を飾る黒いカラス」という表現でアンブロシウスをあてこすった。現代のような剽窃への危機意識は古代にはなかったが、ヒエロニュムスはこうした行動でアンブロシウスを貶めることができると考えたのである。『ルカ福音書説教』のラテン語訳は、アンブロシウス『ルカ福音書注解』が書かれた390/1年よりあと、そしてオリゲネス主義論争が勃発した393年より前になされたと考えられる。

19世紀の終わりから20世紀初頭にかけて、研究者の間では、オリゲネスの著作のラテン語訳(ヒエロニュムスとルフィヌスによる)を軽視し、ギリシア語の断片はそれがどんなものであってもラテン語訳より優れていると考える風潮があった。しかし、こうした考え方は現在では以下の2つの理由から支持されない。

第一に、ヒエロニュムスの翻訳は信頼できる。ルフィヌスがヒエロニュムスの『ルカ福音書説教』の翻訳について批判しているのは2点だけであり、いずれもごくわずかな問題にすぎない。そしてその2点がヒエロニュムスの翻訳についてルフィヌスの発見できた不正確さであるとすれば、その翻訳はきわめて忠実だということである。第二に、ギリシア語断片は必ずしも信頼できない。ほとんどの断片はカテーナに収録されたものであるが、カテーナ編者はしばしば文章を短くし、圧縮し、再編してしまう。こうしたことから、著者は、ヒエロニュムスの翻訳を読むことはオリゲネス本人を読むに等しいと主張する。

『ルカ福音書説教』の本文は、ヒエロニュムスのラテン語訳の他に、カテーナに保存されたギリシア語断片がある。GCSの編者であるMax Rauerは断片を集め、信憑性を測った上で、それらを2つのグループに分けた。すなわち、ラテン語訳との明らかな並行関係にあるものと、ないものである。GCSでは、並行箇所はラテン語訳の横に印刷されている。並行関係にない箇所のうち、Rauerが『ルカ福音書説教』か『注解』に由来すると考える断片は、本文として印刷されている。他にも、オリゲネスのマタイ福音書に関する著作で共観部分について書いたギリシア語テクストの断片は、その始まりと終わりだけが書かれた上で、GCSの該当箇所が指示されている。

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