2016年9月14日水曜日

レイノルズ、ウィルソン『古典の継承者たち』 #3

  • L.D. レイノルズ、N.G. ウィルソン「第六章:テクスト批判」、『古典の継承者たち:ギリシア・ラテン語テクストの伝承にみる文化史』(西村賀子、吉武純夫訳)国文社、1996年、306-65頁。
古典の継承者たち―ギリシア・ラテン語テクストの伝承にみる文化史古典の継承者たち―ギリシア・ラテン語テクストの伝承にみる文化史
L.D. レイノルズ N.G. ウィルソン L.D. Reynolds

国文社 1996-03
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テクスト批判とは、伝承の道筋を遡り、できうる限り元の形に近づくようにテクストを復元しようとする試みである。この過程は、二つの段階に分けられる。第一に、「校合(recentio)」であり、この過程では、証拠資料たる複数の現存写本を基にして、その背後にある、復元可能な最も古いテクスト形態を再構成する。第二に、それが再構成されたときには、そのテクストが真正でない場合、そのテクストを「校訂(emendatio)」して、毀れを抜き出すのである。

テクスト批判の理論の発展。印刷された通俗本ではなく、写本からテクスト批判をする研究の端緒は、Richard Bentleyによる新約聖書の研究(1721年)だった。Johann August ErnestiとFriedrich August Wolfもまた、この原則を古典テクストに適用した。校合のための「系図理論」は、Karl Lachmannによって提唱され、J.A. Bengelの新約聖書研究、Carl Zumptのキケロー研究、そしてJacob Bernaysのルクレティウス研究などで応用された。

校合の系図理論。Paul Maasもまた、系図理論の主唱者のひとりであった。彼によると、系図理論の主要点は、次の二つである。第一に、系図の構成:写字生が写本を写すときに犯す誤り、例えば「省略」や「置き換え」に注目すること。第二に、系図の応用:原型の読みを再構成するために系図を機械的に応用すること、である。

系図法の限界。系図理論が前提としているのは、第一に、諸写本がそれらの手本とされた一冊の本から「垂直に」伝えられるものだということである。しかし、写本の伝承には、「混成」、すなわち「水平の」伝承があったせいで、数グループの誤りによって特徴づけられる部類や系統に諸写本を振り分けることができないことがあるのである。また、第二の前提としては、現存するすべての写本はただひとつの原型にまで遡ることができ、その原型の年代は古代末期から中世初頭だというものである。しかし、伝承の傍流たる分かれた枝を代表する写本はいくらも見つかっている。そして前提の第三は、古代の作家自身が出版後に自分の現テクストに訂正や変更を施した可能性を考慮に入れないことである。これらの三つの前提は、そのまま系図理論の限界を示してもいる。

個々の写本の時期と価値。最良の写本は、決定のための合理的根拠のある箇所で正しい読みを一番多く与える写本であり、一般に写本が古ければ古いほど価値があるとされている。しかし、古くともパピルス写本などは質が悪いものが多い。また比較的後代の諸写本の中に真実が現れることもある(recentiores, non deteriores)。

間接的伝承。ある作家によってなされた別の作家の引用を指す、間接的伝承が有益な転居になることもある。たとえば、『スーダ』辞典には、そうした伝承が多く収録されている。ただし、引用はたいてい記憶に頼って行なわれたので、大部分の場合、校訂者は一時的伝承に従うのが正しいだろう。

他のいくつかの基本的原則。代表的な原則としては、「より難解な読みの方がすぐれている(difficilior lectio potior)」というのがある。写字生はときには故意に、ときにはうっかりと、もはや簡単には理解できないまれな語形や古風な語形をテクストから取り除いたり、自分には習熟できない複雑な思考過程を単純化したりする傾向があった。こうした改竄や矮小化は真正なテクストでない可能性が高いのである。

テクストの毀れ。テクストの誤りにはいくつか種類がある。第一に、古代や中世の諸隊の特徴が原因となって起こる間違い(分かち書きでないこと、文字の酷似、省略形の読み違え、数字、単語の混同)。第二に、綴りと発音の変化から生じるもの。第三に、省略によるもの。第四に、付加の誤り。第五に、置き換えの誤り。第六に、文脈によって引き起こされる誤り。第七に、キリスト教思想の影響。第八に、写字生の意図的行為に由来する間違い。

伝承の流動的諸形態。実用書の便覧は、その情報が時代遅れになったり、読者の要求にとって不十分なものだったり、あるいは逆に綿密すぎたりすることが読者にとって不便なので、伝承がより流動的になりがちであった。

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