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2018年8月23日木曜日

オリゲネスの文献学 Martens, "Specialization: The Elements of Philology"

  • Peter W. Martens, Origen and Scripture: The Contours of the Exegetical Life (Oxford Early Christian Studies; Oxford: Oxford University Press, 2012), 41-66.
Origen and Scripture: The Contours of the Exegetical Life (Oxford Early Christian Studies)Origen and Scripture: The Contours of the Exegetical Life (Oxford Early Christian Studies)
Peter W. Martens

Oxford University Press 2014-07-30
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オリゲネスの時代から、文学の学術的な研究、すなわち文献学は、よく確立された分野だった。B. Neuschäferは、ディオニュシオス・トラクス『文法学』のスコリアから、ヘレニズム期の文献学の四大実践を紹介し、それをオリゲネスの文献学に当てはめている。すなわち、本文批評(ディオルトーティコン)、声に出して読むこと(アナグノースティコン)、歴史的・文学的分析(エクセーゲーティコン)、そして美的・倫理的評価(クリシス・ポイエーマトーン)である。このうち、歴史的・文学的分析は、さらに次のように4つの下位分野を持っている。すなわち、語の意味を明らかにすること(グローッセーマティコン)、文法的・修辞的分析(テクニコン)、韻律・様式分析(メトリコン)、そして歴史的現実の分析(ヒストリコン)である。

本文批評(ディオルトーティコン)。テクストの不一致が起こるのは、写字生が意図せずに不用意にしてしまったり、疲労のためにしてしまったからということもあれば、悪意を持って意図的にしたからということもある。旧約聖書の本文批評には、あるテクスト内の写本間の不一致を扱う方法と、すべてをひっくるめて諸テクスト(ヘブライ語テクストや諸ギリシア語訳)間の不一致を扱う方法がある。オリゲネスは基本的には前者の方法論に則って、七十人訳テクストの諸写本の不一致を扱ったが、一方でヘブライ語テクストや他のギリシア語訳も参考にしている。

彼の本文批評の成果の代表例が『ヘクサプラ』である。この著作の証言としては、『アフリカヌスへの手紙』と『マタイ福音書注解』がある(他にはエウセビオス、ヒエロニュムス、エピファニオスらの証言がある)。前者では、ユダヤ人との論争のための道具として作ったと述べているが、後者では、いくつもの一致しない「七十人訳」テクストの「修復(イアオマイ)」のために作ったと述べている。ある七十人訳写本がヘブライ語やギリシア語訳テクストよりも量的に「多い」テクストを持っている場合、オベロス記号が振られ、より「少ない」テクストを持っている場合、アステリスコス記号が振られた上で、ヘブライ語テクストと一致した他のギリシア語訳からテクストが付け加えられる。いずれの場合も、さまざまな写本が「修復」されることになる。

歴史的・文学的分析(エクセーゲーティコン)歴史的分析(ヒストリコン)は、問題の事実性を問題とする。つまり、ある出来事が実際に起こったのか起こらなかったのか、あるいは特定の法の字義的な意味が遵守されたのか遵守されなかったのか、といったことを扱う。オリゲネスは、非論理的(アロゴス)だったり不可能(アデュナトス)だったりする例を挙げている。文献学者がある出来事の事実性を確認した後は、自身の教養(エンキュクリオス・パイデイア)を総動員して、当該箇所の説明をする。それはたとえば、地形学、習慣の知識、歴史家の証言、宇宙論、幾何学、鉱物学、動物学、医学、人類学、言語、倫理学、理神論などである。

文学的分析といえるのは、語の意味を明らかにすること(グローッセーマティコン)文法的・修辞的分析(テクニコン)である。前者は、難しかったり知られていなかったりする語を定義することである。そのためによく用いられるのが、固有名詞の語源学的分析や数の象徴的な価値の分析などである。

後者のテクニコンは、重要な語(神など)の定冠詞、文法的な数、時制、破格、不明瞭な文法的な形などに注目する。さらには、言葉のあやや比喩、擬音、誤用、暗喩、逆説、提喩、強調、迂言法、同語反復、誇張、転置法、寓意、省略、同音異義語などにも注目する。論文著者によると、これらに加えてオリゲネスは、話者の特定、シークエンスの順序、そしてより明確な一節から不明瞭な一節を説明することなども試みている。とりわけ最後の方法論は、アレクサンドリア文献学の「ホメロスからホメロスを」という表現に近い、「霊的なものを霊的なものと比べる」(一コリ2:13)という一節に基づいた考え方である。とはいえ、むろんオリゲネスがアリストブロス、フィロン、ヘラクレオン、ヘブライ人教師などに依拠していることも忘れてはならない。

B. Neuschäferは、寓意家としてのオリゲネスを古いイメージとし、新しいイメージとして文献学者としてのオリゲネスを提案したが、論文著者によると、寓意的解釈は文献学的研究の中の一側面である。上で見てきた文献学的方法論は、聖書の寓意的な意味を見つけるためにオリゲネスを助けるテクニックである。オリゲネスにとって、聖書テクストは「字義的」意味と「非字義的」(=寓意的、比喩的、象徴的、霊的、神秘的、深遠な)意味に分かれている。そして文献学は字義的なモードでも寓意的なモードでも実践されるが、それはいつでも文献学なのである。

聖書は二様の伝達で書かれている。語は基本的な指示物を持っているが、また同時に他の指示物を象徴してもいるのである。この二様の特徴が、そのまま字義的解釈と寓意的解釈に対応している。字義的解釈の目的は、基本的な指示物を同定することであり、寓意的解釈の目的は、この別の指示物を同定することなのである。

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