2016年11月1日火曜日

オリゲネスとアガダー De Lange, Origen and the Jews #10

  • Nicholas de Lange, Origen and the Jews: Studies in Jewish-Christian Relations in Third-Century Palestine (University of Cambridge Oriental Publications 25; Cambridge: Cambridge University Press, 1976), pp. 123-35.
オリゲネスの聖書解釈とユダヤ教のアガダーとの比較研究はすでに存在しているが、しばしばそうした研究は、両者の共通点をカタログ風にまとめただけで満足してしまっていることが多い。またラビ文学と教父文学とに共通点を見つけたからといって、それを直ちに前者から後者への直接の影響と考えるのは早計である。なぜなら、教父たちは、ラビ文学にある伝承とソースを同じくする伝承を、外典文学やフィロンなどのヘレニズム期ユダヤ文学から知ったかもしれないからである。教父たちと同時代のユダヤ人との直接的な影響関係がどの程度のものだったのかは、まだよく分かっていない。それゆえに、教父文学とラビ文学とに並行箇所があっても、他のソースの可能性を捨て去ってはいけないのである。

論文著者は、こうした前提をもとに、オリゲネスがユダヤ人から聞いたものであると明言しており、かつラビ文学に並行箇所が見られるような聖書解釈を5つ検証している。すなわち、創造、ノア、ヨセフ、出エジプト記、そして民数記である。

検証の結果、論文著者は以下のように結論している。第一に、オリゲネスは、ヘレニズム期ユダヤ人作家の著作には見られないようなアガダー的材料を保存している。第二に、ただしそれはすべてではなく、オリゲネスが言及している伝承のいくつかは、ラビ文学以外にも、たとえばフィロンに見られる。またフィロンになくとも、別の非ラビ的資料にはある可能性はある。第三に、オリゲネスが言及する伝承のソースである「ヘブライ人」は、ラビ的な性質を持っているが、非ラビ的な解釈をもオリゲネスに教えている。この「ヘブライ人」の正体について、論文著者次のように述べている:
The problem of the identity of 'the Hebrew' must remain one of the great enigmas connected with name of Origen. (p. 132)
さて、論文著者は、本書のまとめとして以下のように述べている:オリゲネスは聖書を真剣に学んだ最初のキリスト教教父である。当時の教会はシナゴーグと敵対的な関係であったが、キリスト者たちは、ユダヤ人から教えを請わずに聖書について学ぶことはできなかった。オリゲネスは、こうしたキリスト教的な聖書の学びからユダヤ教からの影響を払拭しようとしたが、それをするにはまず彼自身がユダヤ的伝統に通暁せねばならないというジレンマを抱えていた。ユダヤ人との接触時代は容易であり、何となれば教会内にもユダヤ・キリスト者がいた。

まずオリゲネスはギリシア語聖書のテクストを定め、それとヘブライ語テクストとの関係を検証しようとした。そのために彼が作ったのが『ヘクサプラ』である。ただし、彼自身はヘブライ語を読むことができなかったので、ヘブライ語テクストを知るために、代わりにアクィラ訳を読んだ。彼はこうしてテクストを定めたうえで、聖書解釈の理論や方法論を学んでいった。そのときの彼の教師となったのが、フィロン、パウロ、そしてラビたちであった。特に、生きたユダヤ教を継承するラビたちへの依拠は、オリゲネスの聖書解釈の最も特別な点であった。

こうして、オリゲネスは教会における学術的な聖書解釈の創始者となった。彼の影響は、ルフィヌスやヒエロニュムスを通じて、西方教会へも及んだ。言い換えれば、3世紀のカイサリアのラビたちは、オリゲネスを通してキリスト教世界全体の聖書解釈の伝統に影響を与えることがになったのである。

オリゲネスは、しばしば自身がユダヤ人に依拠していることを明言しないこともあったが、かといってユダヤ人を完全に敵に回すようなことはなかった。むしろ、異教徒によってユダヤ人が批判されると、ユダヤ人を擁護して反論する立場に回った。

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