- Ronald F. Hock, "Homer in Greco-Roman Education," in Mimesis and Intertextuality in Antiquity and Christianity, ed. Dennis R. MacDonald (Studies in Antiquity and Christianity; Harrisburg: Trinity Press International, 2001), pp. 56-77.
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本論文は、古代世界の教育において、ホメロス作品がいかに使われていたかを概観したものである。ギリシア・ローマ世界では、初級・中級・上級という三段階の教育方法が採られていた。初級学校においては、γραμματιστήςと呼ばれる教師のもとでのアルファベットの学習から始まり、音節、単語、文章、そして最終的には短い詩の一節を学ぶ。Raffaella Cribioreは、初級学校においては、読みの練習だけではなく、きれいに文字を書くための習字の練習もされていたと指摘している。中級学校においては、文法と文学について学び、教師はγραμματικόςと呼ばれていた。上級学校に行く者は限られていたが、行った者は修辞学か哲学を学んだ。多くの者は修辞学を選び、ῥήτωρやσοφιστήςのもとで弁論の技術を学んだ。Teresa Morganは、教育におけるリテラシーは、アイデンティティとステイタスの基準としても機能していたことを指摘している。
初級学校においては、アルファベット順に、ホメロス作品に登場する固有名詞のリストが用いられていた。このリストは音節数が徐々に増えていくようにもなっており、初学者がだんだんと文字を覚えていくことができるようになっていた。メナンドロス作品の固有名詞リストも見つかっているが、ホメロスは群を抜いて高頻度で使われていたことが知られている。このリストを正確に写すことで、正しい文字の書き方を学び、それを読むことで正しい発音も学ぶのである。さらに、Janine Debutによると、教師はリストの登場人物について説明することを通して、ギリシアの歴史と文化の基礎を教えていたのだという。このリストを学んだあと、生徒たちは短い文章を書き写しつつ、暗記した。
中級学校においては、文法と文学が講じられた。生徒たちは母音と子音を区別し、音節について学ぶ。そして単語を8つの品詞に分類し、最終的に長い文学作品を解釈することを学ぶことになる。このとき、こうした分析の実例としてのホメロス作品では、『オデュッセイア』よりも『イーリアス』の方が好まれた。この段階で生徒たちがホメロス作品を読むときには、古代の難解な詩的表現をコイネー・ギリシア語に改めた、スコリア・ミノラというアンチョコのようなものの助けを借りていたという。そして『イーリアス』をパラフレーズし、一問一答で内容理解を深めていった。
上級学校においては、修辞学と哲学が学ばれていた。修辞学においては、法廷弁論、審議弁論、演示弁論という3つの型があったが、これらを身に着けていることは成人の義務と見なされていた。これを練習するために、生徒たちはより短くて簡単な作文から始めていったが、そうした小弁論はπρογυμνάσματαと呼ばれた。この小弁論の例として用いられていたもので現存するものとしては、アレクサンドリアのテオン、タルソスのヘルモゲネス、アンティオケイアのアフトニオス、そしてミュラのニコラオスの作のものが残っている。
小弁論の中では、さまざまなジャンルが扱われたが、中でもδιήγημα, γνώμη, ἠθοποιίαにおいて、頻繁にホメロス作品が用いられた。διήγημαは物語の中の特定の出来事、διήγησιςは物語全体のことを指すが、ホメロス作品をもとにこの二つの用語の違いが説明された。γνώμηにおいては、ホメロス作品の中の金言が引用された。金言の中でも、奨励、諫止、混合、誇張を表すものに関してよく用いられたという。そしてἠθοποιίαにおいては、ある出来事の中で登場人物がいかにも言うであろうことを生徒が作文するときに、題材としてホメロスが用いられた。この仮想会話をうまくやるためには、その場面のみならず、その前後の場面をも知っていなければならないため、ホメロスのように皆が知っている題材を取ることは有効なのである。
以上より、ホメロスの叙事詩が教育の三段階のすべてにおいて重要な役割を持っていたことが分かる。いやしくも教育を受けた人であれば、ホメロスを諳んじていることが求められていたのである。
初級学校においては、アルファベット順に、ホメロス作品に登場する固有名詞のリストが用いられていた。このリストは音節数が徐々に増えていくようにもなっており、初学者がだんだんと文字を覚えていくことができるようになっていた。メナンドロス作品の固有名詞リストも見つかっているが、ホメロスは群を抜いて高頻度で使われていたことが知られている。このリストを正確に写すことで、正しい文字の書き方を学び、それを読むことで正しい発音も学ぶのである。さらに、Janine Debutによると、教師はリストの登場人物について説明することを通して、ギリシアの歴史と文化の基礎を教えていたのだという。このリストを学んだあと、生徒たちは短い文章を書き写しつつ、暗記した。
中級学校においては、文法と文学が講じられた。生徒たちは母音と子音を区別し、音節について学ぶ。そして単語を8つの品詞に分類し、最終的に長い文学作品を解釈することを学ぶことになる。このとき、こうした分析の実例としてのホメロス作品では、『オデュッセイア』よりも『イーリアス』の方が好まれた。この段階で生徒たちがホメロス作品を読むときには、古代の難解な詩的表現をコイネー・ギリシア語に改めた、スコリア・ミノラというアンチョコのようなものの助けを借りていたという。そして『イーリアス』をパラフレーズし、一問一答で内容理解を深めていった。
上級学校においては、修辞学と哲学が学ばれていた。修辞学においては、法廷弁論、審議弁論、演示弁論という3つの型があったが、これらを身に着けていることは成人の義務と見なされていた。これを練習するために、生徒たちはより短くて簡単な作文から始めていったが、そうした小弁論はπρογυμνάσματαと呼ばれた。この小弁論の例として用いられていたもので現存するものとしては、アレクサンドリアのテオン、タルソスのヘルモゲネス、アンティオケイアのアフトニオス、そしてミュラのニコラオスの作のものが残っている。
小弁論の中では、さまざまなジャンルが扱われたが、中でもδιήγημα, γνώμη, ἠθοποιίαにおいて、頻繁にホメロス作品が用いられた。διήγημαは物語の中の特定の出来事、διήγησιςは物語全体のことを指すが、ホメロス作品をもとにこの二つの用語の違いが説明された。γνώμηにおいては、ホメロス作品の中の金言が引用された。金言の中でも、奨励、諫止、混合、誇張を表すものに関してよく用いられたという。そしてἠθοποιίαにおいては、ある出来事の中で登場人物がいかにも言うであろうことを生徒が作文するときに、題材としてホメロスが用いられた。この仮想会話をうまくやるためには、その場面のみならず、その前後の場面をも知っていなければならないため、ホメロスのように皆が知っている題材を取ることは有効なのである。
以上より、ホメロスの叙事詩が教育の三段階のすべてにおいて重要な役割を持っていたことが分かる。いやしくも教育を受けた人であれば、ホメロスを諳んじていることが求められていたのである。
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