2011年11月30日水曜日

4世紀のラテン語再生運動について


  • A. Cameron, "The Latin Revival of the Fourth Century," in Renaissances before the Renaissance: Cultural Revival of Late Antiquity and the Middle Ages, ed. W. Treadgold (Stanford: Stanford University Press, 1984), 42-58, 182-84.

0804711984Renaissances Before the Renaissance: Cultural Revivals of Late Antiquity and the Middle Ages
Warren Treadgold
Univ Microfilms Intl 1985-01
by G-Tools

4世紀におけるラテン語およびラテン文学の再生運動に関する論文を読みました。Alan Cameronはコロンビア大学の古典学教授です。かなり専門的なラテン文学の研究史に即した論文だったので、私には少々難しかったですが、分かる範囲で以下まとめてみます。

黄金時代→白銀時代と衰退していたラテン語が、4世紀に再生したことの理由としては、これまで1)ローマ帝国の経済・軍事の衰退に伴う文化的衰退への抵抗、2)キリスト教徒や野蛮人の脅威に対する異教の貴族たちの抵抗、といった理由が挙げられてきました。特に2)の見解はH. BlochやP. Levineによって主張されているものだそうです。これに対し、Cameronは新しい見解を示します。アンミアヌス(Ammianus Marcellinus)やクラウディアヌス(Claudianus)といったギリシア生まれの歴史家、詩人たちが、ギリシア語でなくラテン語で著作をものしたのは、競争の激しいギリシア文学と違って、ラテン語で書けば容易に名を残す作品を書くことができたからであり、文化的衰退やキリスト教文学への抵抗といった通説はまるで関係ないようです。ここで注目すべきは、彼らラテン語ネイティブでない者たちがラテン語で著作を残したのは、ラテン語の方が文化における支配的な言語だったからではなく、あくまで競争相手が少なかったからだったということです。これは当時のギリシア語とラテン語との関係を考えるうえで重要な指摘だと思います。

また2)の理由を支持する意見として、異教の貴族がラテン語写本の作成において果たした役割を重視するものがあります。つまり、彼らの働きがなければラテン文学の多くが失われてしまったはずだという意見ですが、Cameronは4つの理由からこれに反対します。①残っている写本の多くは学校の教本や一般書の類いであって、希少なものではなかった。②写本の製作者は異教徒ではなく、実際はキリスト教徒だった。③写本作者たちは宗教的実践の一環として写本製作をしていた。④異教の貴族たちも確かに写本製作を行っていたが、それは個人の図書館に本を保存するためであって、ラテン文学の再生を引き起こすような大々的な運動には成り得なかった。という4つの理由です。

さらに、4世紀終わりのスュンマクス(Q. Aurelius Symmachus)なる人物が異教の祭壇を再建するように皇帝に嘆願書を出していたことを根拠として、通説ではラテン語再生の理由が2)キリスト教に対する異教の抵抗であったことが示されますが、これに対しCameronは、ガリアとローマの具体例を挙げて、スュンマクスよりずっと以前からラテン語の再生運動が行われていたことを示します。まずガリアでは、3世紀の戦火の復興のためにローマより優秀なラテン語学者が集まっており、そこで学んだアウソニウス(Ausonius)なる人物の証言によると、すでに4世紀序盤には、キケローや小プリーニウスらをモデルとした学校があり、当地がラテン語再生の只中にあったことが分かります。しかもアウソニウスはキリスト者でもありました。一方ローマでは、ヒエロニュムスの証言によると、4世紀中盤には彼の師匠であったラテン文法学者ドナトゥス(Donatus)とウィクトリヌス(Marius Victorinus)の学校が繁盛していたようです。以上より、ラテン語の再生運動がキリスト教に対する異教の抵抗運動であったことを示すはずのスュンマクスの証言よりはるか以前から、キリスト教徒を含む者たちによって各地で同様の運動が起きていたことが分かります。それゆえに、この通説は根拠を失ってしまうわけです。

Cameronの主張も興味深いものでしたが、個人的にはヒエロニュムスの師匠ドナトゥスと、その後継に当たるセルウィウスとの著作上の類似の問題が面白かったです。セルウィウスによるウェルギリウス注解書は、ドナトゥスのパッチワークのようなものだと考えられているそうですが、Cameronによると、ドナトゥスの注解書にはない白銀時代の詩人の引用がセルウィウスの注解にはたくさんあるそうです。ドナトゥスが知っていた白銀時代の詩人はルカヌスしかおらず、それゆえに弟子のヒエロニュムスが知っていたのもルカヌスやペルシウスなどに限られていましたが、セルウィウスはユウェナリスなども引用しています。確かに言われてみると、これまでヒエロニュムスの著作の中でユウェナリスが引用されているのを見たことはないように思います。ちなみにヒエロニュムスの古典文学の知識に関しては、Cameronも引用しているように、やはりHagendahlの研究が詳しいようで、私もこの本は持っていますが未読なので、いずれ腰をすえて読まなければなりません。

  • H. Hagendahl, Latin Fathers and the Classics: A Study on the Apologists, Jerome and Other Christian Writers (Studia Graeca et Latina Gothoburgensia VI; Göteborg: Elanders Boktryckeri Aktiebolag, 1958).

B001NX2ZU6LATIN FATHERS AND THE CLASSICS - A STUDY OF THE APOLOGISTS, JEROME AND OTHER CHRISTIAN WRITERS
Harald Hagendahl
Goteborgs Universitets 1958
by G-Tools

2 件のコメント:

  1. すばらしいアイデアは、その印象的だった...

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  2. ?? とまれ好意的に受け取っていただけたようでありがとうございます。

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