2011年11月10日木曜日

「ユダヤ化した」終末論


  • W. Kinzig, "Jewish and 'Judaizing' Eschatologies in Jerome," in Jewish Culture and Society under the Christian Roman Empire, ed. R. Kalmin and S. Schwartz (Leuven: Peeters, 2003), 409-29.

Jewish Culture and Society Under the Christian Roman Empire (Interdisciplinary Studies in Ancient Culture and Religion)Jewish Culture and Society Under the Christian Roman Empire (Interdisciplinary Studies in Ancient Culture and Religion)
R. Kalmin

Peeters Bvba 2003-10
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論文の著者であるWolfram Kinzigはボン大学の教会史の教授です。

ヒエロニュムスは著作の中でしばしば、「我らのユダヤ化した者ら、半ユダヤ人」という者たちに言及し、その者たちが考える終末論を批判しています。しかし名前を挙げることはなく、しかも断片的な言及に留まっていて、その思想の全体像は不明でした。そこでKinzigはこの者を仮に「X」と名付けて、ヒエロニュムスの言及のすべてを精査することで、この者が誰なのか、そしてその終末論にどのような特徴があるかを突き止めました。その成果の全体はモノグラフとしてまとめる予定であり、本論文は部分的なアウトプットのようですが、Kinzigのビブリオグラフィを見てもどれがそれに当たるのかよく分かりません。

Kinzigによると、Xの終末論は預言書とヨハネ黙示録、そして異教的な思想の影響を受けており、特徴としては、1)LXXのみならずヘブライ語聖書に通じている、2)4世紀後半から378年以前の人物である、3)パレスティナ・シリア地方の土地勘がある、4)預言者の言葉を文字通り、現在的なものとしてとる、5)そうした預言に照らしてヨハネ黙示録を読んでいる、ということが分かったそうです。そして以上の特徴から浮かび上がってくる人物こそが、ラオディケアのアポリナリオスでした。実際アポリナリオスはヘブライ語に堪能で、ユダヤ・キリスト者の一派であるナザレ派との交流もありました。同時に父親はギリシア語の文法学者だったこともあり世俗の古典文学にも通じていました。さらに興味深いことに、ヒエロニュムスが「ユダヤ化した者ら」の主張として言及している文言と非常に似た文章がアポリナリオスの著作にも含まれているようです。

こうした調査の結果、全体的に分かったこととしては、a)キリスト教ローマの支配下におけるユダヤ教の影響の大きさ、b)アポリナリオスの聖地に対する興味は同時代のキリスト教徒と異なっていることなどが挙げられます。それはともかく少し気になるのは、Kinzigがアポリナリオスのユダヤ趣味・ヘブライ語趣味を「Philosemitism」と名付けていることで、Kinzig自身が注で述べているように、このタームの使い方はS. J. D. CohenとP. Schäferによって批判されています。どのような文脈で批判を受けているか、いずれ二人の論文をチェックしたいと思います。

以上のような内容的な部分ももちろん面白かったですが、この論文がいいのは注が充実していることで、特にイントロダクションでの研究史の注の中には、恥ずかしながらいくつか知らないものもありました。これもチェックが必要です。

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