2011年9月23日金曜日

徳永恂「ヘルマン・コーエンとゲオルク・ジンメルをめぐる「同化」の問題(上)」

岩波書店の雑誌『思想』の最新号に掲載されている、徳永恂氏の論文を読みました。

徳永恂「ヘルマン・コーエンとゲオルク・ジンメルをめぐる「同化」の問題:ドイツ・ユダヤ精神史をめぐる断層(上)」『思想』1049号、岩波書店、2011年、6-32頁。

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この論文は、イントロダクションのところで著者が書いているように、昨年の京都ユダヤ思想学会で、上山安敏氏と共にシンポジストを務めた公開講演会の内容を発展させたものであるようです。全体の要旨は、以下のようなものです。
ここでは先ず ヘルマン・コーエン(1842-1918年)の、新カント派の講壇哲学者というこれまでのイメージとは別の、「時代史に積極的にコミットしたユダヤ思想家」という側面を、彼の内的発展を辿って浮彫にし、次ぎに外的に、ゲオルク・ジンメル(1858-1918年)と対照することによって、「同化と同一化」をめぐる微妙な消息を明かにしようとする。ただそこで考えられているのは、たんにコーエンとジンメルの二者関係ではない。むしろゲルショム・ショーレム(1897-1982年)を含めた三者関係、俗に言えば「三角関係」が、暗黙のうちに、問題図の枠組を規定している。(7頁)
コーエンとジンメルはいいとして、そこにショーレムを組み合わせるというのは、やや意外な感じがします。しかもその「三角関係」も、同世代のコーエン&ジンメル対ショーレムという図式ではなく、コーエン&ショーレム対ジンメルという図式が提示されます。実はこれはショーレム自身によって設定された自己理解であり、その区別標識は、「ユダヤのために戦ったかどうか」(10頁)ということなのだそうです(このあたりについて、徳永氏とショーレムとの個人的な会話も出てきます)。むろんコーエン&ショーレムが「戦った」側になるわけですが、この上巻では主にコーエンの「戦い」にフォーカスが当てられています。その「戦い」の具体例としては、「第一に、1879年から80年にかけて、ベルリン大学を主舞台として繰りひろげられた、ハインリヒ・フォン・トライチェケをめぐる『反ユダヤ主義論争』」、「第二に、世紀の代り目をはさんで展開されたフランスでの『ドレフュス事件』の経緯とその収束の顛末」、「第三に、1914年に勃発する第一次世界大戦開戦時における『聖戦』の理念とその帰趨」(14-15頁)が挙げられています。

これ以上の内容については論文を見ていただくことにして、個人的に「なるほど」と思ったところを以下に抜き出しておきます。ユダヤ人の「解放」と「同化」について、実に分かりやすく書かれています。次号の続きが楽しみですね。
たんに「束縛を解いて自由にする」という意味での、つまり普通名詞としての「解放(Befreiung)」と区別して、歴史的に固有な意味で「解放 (Emanzipation)」という言葉が使われる時、それは、ユダヤ人が「ゲットー」への閉鎖生活を解かれて、「キリスト教市民社会」へと参入するこ とを指していた。そこへ入る許可証が、――そこでは一応、信教の自由がたてまえとされていたから――改宗や洗礼ではなくて「同化 (Assimilation)」だったのだ。いわば、同化を条件に解放された、と言っていい。だから、そこでの「ユダヤ人問題」とは、ユダヤ人についての 問題一般ではなく、「解放後のユダヤ人の同化の程度」をめぐる問題だったのだ。
 注意すべきなのは、その場合「同化」とは、本来、他動詞assimilierenから造られた言葉であり、「同化させる」ことを意味する、ということである。同化させる主体は、受け入れ側であり、ユダヤ人はその受動的客体にすぎない。受入側が、キリスト教市民社会から「国民国家」に代わっても、事情は変らない。ユダヤ人を主体とする場合には、sich assimilieren(自ら、自らを、同化させる)という、別の語法が必要となる。自己の生存を「自然権」として主張できないユダヤ人は、自己保存のためには、自己同一性(アイデンティティ)を犠牲にしてでも宿主への同化をはからざるをえなかった。(25-26頁)
*付記
いくつか誤記を見つけたので、参考までに挙げておきます。
15頁、雑誌『現代』のルビ、グーゲンヴァルト→ゲーゲンヴァルト?
19頁、×神・精霊・イエス ○神・聖霊・イエス
32頁、注15、×Heinlich Graetz ○Heinrich Graetz

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*追記
この論文の(下)はこちらから。
徳永恂「ヘルマン・コーエンとゲオルク・ジンメルをめぐる「同化」の問題:ドイツ・ユダヤ精神史の断層(下)」 『思想』1050号、岩波書店2011年、75-90頁。

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