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2018年12月10日月曜日

オリゲネスの記号とシロ・ヘクサプラ Gentry, "Did Origen Use the Aristarchian Signs in the Hexapla?"

  • Peter J. Gentry, "Did Origen Use the Aristarchian Signs in the Hexapla," in XV Congress of the International Organization for Septuagint and Cognate Studies, Munich 2013, ed. Wolfgang Kraus, Michaël N. van der Meer, and Martin Meiser (Septuagint and Cognate Studies 64; Atlanta: SBL Press, 2016), 133-47.

Anthony GraftonとMegan Williamsは、オリゲネスの『ヘクサプラ』の第5欄にはオベロス記号もアステリスコス記号も使われてはおらず、ある欄のテクストが欠落しているときには単にそこが空欄になっていたと主張する。Jennifer Dinesも第5欄には記号はなかったとする。

そもそもOlivier Munnichによると、『ヘクサプラ』には4つの重要な一次資料があるという。第一に、対観部分の4つの断片、第二に、マルカリアヌス写本、シナイ写本、シロ・ヘクサプラなどのコロフォン(奥付)、第三に、ギリシア語聖書の欄外注、そして第四に、オリゲネス、エウセビオス、ヒエロニュムス、エピファニオス、ルフィヌスら教父の言及である。

著者は、再構成されうる『ヘクサプラ』の第5欄のテクスト(=o' テクスト)と、第5欄だけを別に写すことからできた改訂版である『ヘクサプラ』改訂版とを区別するべきだと主張する。

こうした前提のもとに、著者はシロ・ヘクサプラのコロフォンに注目する。これはEduard Schwartz、Giovannni Cardinal Mercati、Pierre Nautinらの研究に対する補足である。なぜなら、彼らはマルカリアヌス写本やシナイ写本のコロフォンについては詳しく研究したが、シロ・ヘクサプラのそれについては省略したからである。GraftonとWilliamsはMercatiやNautinの研究を参考にしたので、やはり限界がある。コデックス学は部分ではなく全体を見なければならない。

著者は、シロ・ヘクサプラ写本の箴言、コヘレト書、雅歌などのコロフォンを紹介しつつ、それらを、T.C. Skeatが研究したシナイ写本におけるエステル記のコロフォンなどと比較している。シナイ写本のコロフォンや、ネストリオス派主教ティモテオス1世がセルギウス宛に書いた手紙などは、古代における写本の作成の様子について教えてくれる。

シロ・ヘクサプラ写本のコロフォンに基づき、著者は次の3点を指摘する。第一に、シロ・ヘクサプラ写本のコロフォンとギリシア語写本のコロフォンを比較することで、シリア語での写本用語を同定することができる。第二に、知恵文学はひとつのコデックスや巻物で伝えられていた。第三に、シロ・ヘクサプラに至るまで3段階あった(アレクサンドリアにおけるテクストのVorlage→シリア語訳の底本となるギリシア語Vorlage→シリア語訳)。

さらにBM Add. 14437の列王記の上へのコロフォンによると、シロ・ヘクサプラは、オリゲネスの『ヘクサプラ』の第5欄の写本をシリア語に翻訳したものであるという。617年にエナトンのアントニオス修道院でテラの司教パウロスが翻訳した。アレクサンドリアにいたパウロスをアタナシオス1世が修道院に招き、翻訳を依頼した。

シロ・ヘクサプラはアステリスコス記号をはじめとした記号を含んでいるにもかかわらず、その本文は『ヘクサプラ』改訂版の七十人訳とはあまり近くない。それは、著者によれば、シロ・ヘクサプラは『ヘクサプラ』ではなく『テトラプラ』に由来するからである。『テトラプラ』はしばしば『ヘクサプラ』のパイロット版として先にできたものとされることがあるが、これは説得的でない。むしろ『ヘクサプラ』によって七十人訳とヘブライ語テクストとの関係が明らかになったので、オリゲネスは最初の2欄をもはや必要としなくなり、『テトラプラ』を作成したという順序である。

また著者は、『ヘクサプラ』改訂版のオリジネーターはパンフィロスとエウセビオスだと主張する。オリゲネスは『ヘクサプラ』から『テトラプラ』へと第5欄のテクスト(=o' テクスト)を写す際に手を入れているかもしれないが、それと『ヘクサプラ』改訂版七十人訳とは区別されるべきである。

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