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2020年7月10日金曜日

アブラハムとロトの別れ(3) Rickett, Separating Abram and Lot #3

  • Dan Rickett, Separating Abram and Lot: The Narrative Role and Early Reception of Genesis 13 (Themes in Biblical Narrative 26; Leiden: Brill, 2020), 69-89.

James Kugelによると、古代の聖書解釈には聖書に対する4つの主要な前提があったという。第一に、聖書とは表面上の意味と深層の意味を持つ謎めいた文書である。第二に、聖書とは読者の現在の問題にも関わる指導の書である。第三に、聖書は完璧で調和的な文書である。そして第四に、聖書は神の霊感を受けた文書である。

著者はこうした聖書の4つの要素にもう一つ付け加える。すなわち、聖書はアブラハムを守ろうとする。古代における多くの聖書解釈は、聖書を真剣に捉え、深く読み込み、アブラハムに関して起きる潜在的な問題を認識した上で、アブラハムの名誉を守るような方法でそうした部分を解釈しようとするのである。

著者はこの章で、創世記13章におけるロトの性格付けの発展について、七十人訳、『ヨベル書』、『創世記アポクリュフォン』をretellingの例として分析している。これらの聖書解釈においては、アブラムをめぐる潜在的な問題をから、ロトの倫理的問題やアブラムとの関係に焦点が動いているという。つまり、アブラムに関する部分について、言い回しを変えたり解釈を加えたり問題部分を削除したりすることで、アブラムの問題は免除される。一方で、ロトは聖書テクスト自体では不明瞭な人物であるに留まっていたが、これらの解釈えは不敬虔なよそ者として見なされるようになったのである。

たとえば、創世記12:4-5でアブラムがカナンの地に行くときに、特に理由なくロトを連れて行っているが、『ヨベル書』はアブラムの父テラがロトを連れて行くように言った台詞を加えている。そうすることで、ロトを連れて行ったのはアブラムの責任ではなくテラがそう言ったからであり、ロトがアブラム家の一員であるかのように読書に思わせることができる。

その後ロトとアブラムは分かれるわけだが、聖書はその経緯を詳らかにしない。これに対し、retellerたちはロトを悪徳の都市ソドムと同列に並べ、また別離の理由をアブラムの提案ではなくロトの選択だったように書き換えている。ロトがソドムの「中に」住んでいることを強調することで、ロトが悪人であることが強調される。また「アブラムはロトを自分の後継者と見なしていたにも関わらず、ロトは自分から離れていってしまった。アブラムはロトの別離に胸を痛めている」といった描写により、読者はアブラムに同情する。

こうしたことから、1世紀の終わりにはすでに、アブラムはいかなる潜在的な悪行からも免除され、ロトは不明瞭な性格の登場人物からはっきりと不敬虔なよそ者という性格付けを与えられているといえる。

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